名曲を封印したポール
ウイングスのライヴのセットリストを見てみると、今のポールでは考えられないほど、ビートルズナンバーが少ない。1976年に行われた全米ツアーの音源を収録したライヴ盤、「Wings Over America」では、ビートルズナンバーは僅か5曲である。
この頃までのポールは、何をやっても叩かれていたイメージがある。ファーストソロアルバムの「McCartney」には、「Junk」や「Maybe I'm Amazed」といった名曲が収録されており、次作の「Ram」も素晴らしいアルバムなのだが、共に発売当初は評論家から酷評された。しかし、ポールはウイングスで「Band On The Run」・「Venus And Mars」と、傑作アルバムを立て続けに発表することで、世間の評価を一変させてしまった。ウイングスのライヴに、ビートルズナンバーが少ない理由は、これらの作品にポールが絶対的な自信を持っていたことと、"元ビートルズ"という、どうしても付いて回る自分へのイメージを、払拭したかったからではないだろうか。
その後、過去への感情の折り合いもついてきたのか、まるで吹っ切れたかの様に、ポールのライヴは、ソロやウイングスよりも、ビートルズナンバーが多くなっていく。
これまでポールは、ジョンとの共作・合作のビートルズナンバーを、多くライヴで歌ってきた。幾つか挙げてみれば、
「From Me To You」
「Eight Days A Week」
「We Can Work It Out」
「A Day In The Life」
等々である。
しかし、二人の共作で、未だにポールがライヴで歌っていないと思われる名曲中の名曲が、2曲ある。
それは、「She Loves You」と「I Want To Hold Your Hand」である。ビートルズ解散後、この2曲をポールがライヴで歌ったことは、僕が知る限りでは無い。
ポールはなぜ、この2曲を数十年に亘って封印しているのだろうか。それは、曲に対する思い入れの深さゆえに、"ジョンと一緒でなければ歌えない"と、ポールが感じているからではないだろうか。
「She Loves You」は、イギリスのシングル年間チャートで、1位を獲得している。また、「I Want To Hold Your Hand」は、ビートルズがアメリカの週間シングルチャートで初の1位を獲得した、共に記念すべき曲である。
そしてこの2曲は、ポールとジョンが、共に顔を付き合わせて作曲し、リードヴォーカルも二人で担当したものである。
大切な思い出として外に出すことなく、ポールの胸の中に納められているのだろう。
今回は以上。
それではまた!
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